ANRI[杏里]公式サイト|anri-box.com

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ANRI STYLE

杏里スタイル
ゲスト:小野 緑(ライター)

小野緑いよいよ今年で杏里はデビュー30周年を迎えます。対談シリーズの第6回は、30年音楽をやり続けて来た今、あらためて強く感じるミュージシャン、シンガーとしての決意を、ライターの小野緑が聞きました。いろいろなことにチャレンジしてきたからこそ言える、とてもピュアな言葉や、本当に音楽を愛する想いが伝わってきます。

第6回『30周年……シンガーとして原点に戻る』

小野:いよいよ今年はデビュー30周年ですね。杏里さんが30年間音楽をやり続けてきて、今、いちばん思うことはなんですか?

杏里:これは、ここ数年前から感じていることなんですけど、自分が音楽をやり始めた原点に戻ってきている感じがしています。もちろん、全ての音楽をやり尽くしているわけではないんですけど、ぐるりと一周して、いろいろ消化して、また戻ってきたみたいな。私が曲作りやプロデュースをやり始めたあの頃のサウンドに戻ってきているのは確かです。

小野:ただ、戻ったと言っても、コンピュータの発達で、レコーディングの作業を始め、いろいろ技術的に進歩しているという違いは大きいでしょう?

杏里:そうですね。曲作り自体のやり方は変わってきていますね。最初に曲を作り始めた頃は、ピアノとカセットテープで曲を作って、音の構成だとか音色のイメージは全部頭の中にあったんですよ。それを言葉でアレンジャーに伝えて、アレンジしてもらうというのが当時のスタイルでしたから。今は、コンピュータのソフトがいろいろ出ているので、自分の好きな時間に、そういうイメージまで固めたデモテープが自分で作れてしまう。だから、デモテープができれば、ストレートにアレンジャーに伝えられるんですね。

小野:音楽のような感性を言葉で伝えるのは、なかなか難しいですものね。言葉からイメージするものが、人によって違うから。

杏里:そうなんですよ。この違いは大きいですね。今は、作曲家がそのままアレンジまでできてしまう感じですね。

小野:でもそれも、ある日突然に変わったわけではなくて、杏里さんの曲作りの歴史や、アーティストとしての自信の積み重ねと平行して、自然に変わってきた感じではあるような気がします。

杏里:確かにあの頃は、コンサートの本数も多かったので、コンサートをやりながら、曲も作らなければならないという使命感みたいなものがあって、今のように、本当にリラックスして自分のやりたい音楽をやるという環境ではなかったですね。すごく苦しい思いをしてやっていたのは確かです。でも、苦労した分、いい結果も出せたので、達成感はものすごくありました。ただ、まだ自分自身もアーティストとして未熟だったり、若かったりする分、周りの大人達の雑音がたくさん聞こえて来るわけです。もちろん、最終的な決定権は自分にあるんだけど、曲を作り上げていく段階で、みんなの意見を聞いていくと、それぞれが違う。それでわからなくなっちゃって、すごく煮詰まった時期はありました。一時期なんか、全然曲が作れなくなっちゃったりね。でも、そんなことを経て、ずっと作り続けてきたから、今、そういう時期が懐かしかったり。あの時期はあの時期で、すごく勉強になりましたからね。修行をしながら作品作りをしていた感じかな(笑)。

小野:迷いながらでも、自分の手で作り続けて来たことで、自分の世界なり、サウンドというものが見えて来たんでしょうね。それと、他人に楽曲を提供したりすることで、またステップアップしたということもあるんじゃないかしら?

杏里:そう! 人に作品を作るというのはものすごく勉強になります。私に楽曲を発注するということは、当然私らしさというものを求めて来るわけですね。でも、歌うのは私ではなくて、そのアーティストなわけで、そういう意味では、私はプロデュース的な頭ももたなければならない。だから、そのアーティストの好きな曲であったり、影響を受けてきた人であったり、いろいろ勉強して情報を収集して、作る曲に色を重ねていくんです。そういう意味では、自分の作品を作るとき以上の労力が必要なわけだし、また、それを要求される。そういう意味で、楽しくもあり、勉強にもなるなと思いますね。

小野:杏里さんの歌は、よく新人アーティストのオーディションのときの課題曲になったりすることが多いと聞きますが、例えば曲を依頼されるとき、こんな感じの曲にしてくださいという注文は、かなりあるものなんですか?

杏里:ありますよ。杏里さんのこの曲みたいな感じにしてくださいとか。それはとてもうれしいことだと思います。私の歌が、ある意味、今の歌のベースになっているということですからね。ストレートに言われますね。「「Circuit of Rainbow」みたいな曲にしてください」とか(笑)。

小野:ああ! 曲名まで限定で言われてしまう!!(笑)

杏里:そうなんですよ。「Summer Candles」みたいな曲……とかね。でも、同じ曲は二度と作れないじゃないですか。だから、そういうときは、その曲を作った時代に、自分の気持ちを戻すんです。そうすると、コードの展開やフィーリングで、同じ世界観が出せるかなと。あとは、歌う人が気持ちよく歌えるような歌にしたいなということは、いつも意識しますね。

小野:ちゃんとそのアーティストの歌にしてあげるということですね?

杏里:なるべくそうしたいなと思っています。自分のスタイルや独断と偏見ではなく、発注してきたプロデューサーの言葉だけでもなく、歌う本人が、何が好きなのかしら?ということですよね。過去に、いろいろな方に楽曲を提供していますが、一昨年、リュウ・シオンさんに「夏の夢」という歌を作ったんですね。そのときの依頼は、「とにかくいい歌を作ってください」というだけだったんです。まあ、以前から知り合いだったので、彼のイメージはわかっていましたが、スタッフの意気込みが素晴らしかったので、よし! できる限りいいものを作ろうと思って……。ちょうど韓流ブームのまっただ中で、私の周りの主婦達が、みんなハマっていたんですよ(笑)。それで、彼女達に、リュウさんのどこが素敵なのかいろいろ聞いて作ったんですね。その後、彼のライブを見に行ったときに、やはり主婦の方が多くて、「いい曲をリュウに書いてくださってありがとうございました」って、たくさんの方に声をかけていただいて。これはとっても嬉しかったですね。

小野:去年は、初めて他のアーティストの作品をカバーされましたけど、これもまた、いろいろ苦労があったようですね。

杏里:カバーのアルバムというと、オリジナルを一休みしてブレイク……みたいなイメージがあるかもしれませんが、ブレイクどころか、すごい挑戦なんですよ。だから、今までやらなかったんですけど、人の作品を歌うことで、思っていた以上にまた違う自分を発見することができました。ボーカリストとして、今まで自分ではこういうコード進行は使ったことがなかったけれど、歌ってみると、割と気持ちいいな……とかね。曲作りとはまた別の、歌うという上での自信がつきました。だから、オリジナルアルバムを作るというのももちろん大事なんですけど、カバーや楽曲提供というのが、また別の意味で大切なんだなと最近は思います。少し寄り道するというか。でもそれは、決して無駄な寄り道ではないと。吸収するモノ、得るものはすごく大きいです。

小野:他人の曲を歌うと、自分の中にない発想がある。そこから、新たなチャンネルが生まれる可能性があるということですよね。

杏里:そうなんですよ。だから、自分が曲を作って自分で歌う、次に、自分が他の人が作った曲を歌う。で、今度は自分が人に曲を提供する。この3つをいいバランスでやることで、得るものは大きいです。とにかく今年は、いろいろなものにトライする。シンガーとしてやれることは、全部取り敢えずやってしまおうと思っているんです。30年の集大成として、いろいろなものを含めてやるのも面白いかなと。そう考えると、いろいろなアイデアが浮かんでくるんですよ。今、なかなかいい感じですね(笑)。

小野:杏里さんのベーシックな音楽の部分は、もう何があっても揺るがないから、どんなことをやっても怖くないですよ。30周年の意味って、そういうことじゃない?

杏里:そうですね。私自身、去年ぐらいからそうなんですけど、なんかすごく遊んじゃおう! 楽しんじゃおう!っていう気持ちなんです。ものすごくポジティブ。ものすごく前のめりになってますね。いろいろな出会いも、どんどん枠を越えて広がってる感じがありますね。

小野:コンサートもたくさんやるんですか?

杏里:ライブをというリクエストはたくさんあるんですけど、やるからには、完璧に準備をしてやりたいなと思っています。去年やったツアーが本当に好評で、それはたくさんのファンの方々が見に来てくださったお陰だと思います。だからこそ、今年は、またちゃんと段取りをして、ツアーをやりたいなと。チームとか、ブッキングとか、スタッフときっちり段取りを整えた上で、みなさんに発表しますので、もう少しお待ちください。今年は干支もスタートの子年で、30周年からまたスタートを切るのにピッタリな年だと思います。ファンの方達にもスペシャルなものを考えていますので、楽しみにしていてくださいね。

小野:やはり、ライブはいちばんですからね。杏里さんには、絶対ライブは続けていってほしいと思います。

杏里:私はよく若いミュージシャンに言うんですよ。曲を作るのも大事だけど、プレイすることを忘れちゃいけないって。生で歌うことだったり、プレイすることだったり、テクニックを磨くことだったり……。やっぱりステージの上でどれだけのエンタテイメントを出せるか、パフォーマンスできるかが大切だと思うんですね。私はそこにこだわってきたから。それも、照明の豪華さや、ステージセットの豪華さで見せるのは簡単。そうでなくて、まっさらの何もないステージでどれだけのライブができるかということなんですよ。私はそれができるシンガーでいたいなと思っていますね。それが大事だと、心から思います。

小野:それがアーティストの真価ですからね。誤魔化しようのないところで、どれだけ素手で勝負できるか。そこで、ホンモノか偽物かが出るんだと思います。そう言う意味で、杏里さんはライブハウスを大切にしてますよね。

杏里:去年の11月に、名古屋の「ブルーノート」でライブをやったんですけど、すっごく盛り上がったんですよ。客席も含めて、みんなが一体になった感じ。ライブってこれだな!って思えて……あの気持ちよさは忘れてはいけないなと思います。今年で30周年を迎えましたけど、この先どんな状況になったとしても、ライブハウスでのライブは定期的にやって行きたいなと思っています。いい意味で緊張感があるし、何と言ってもあの空気が好きなの。デビュー当時の新鮮な気持ちを思い出すんですよ。デビューしてから一時、ライブって、何となくむりやり歌わされてるような気がして、ものすごく嫌だった時期があったんです。新人には、必ずそういう時期があるんですね。でも、本当にライブが好きになるには、そこを頑張ってこなすしかない。アマチュアのときは好きに音楽をやっていたのが、スタッフや周りが増えると、何となく自分の存在がなくなるような、やらされてるような……。自分はいったい何をやっているんだろう?って、煮詰まってくる時期があるのね。そういうときに、信頼できるパートナーをまず見つけることが大事。あの時期に自分自身をしっかり持っていなければ、乗り越えてこれなかったと、今振り返ると思いますね。ファンの声、信頼できる周囲の声、あとは、アーティストとしてではなく、一人の人間としてちゃんと支えてくれる親友だったり……。そういう人たちのお陰で、今があるなって思いますね。

小野:やり続けるには、何かを切り捨てたり、方向変換をすることも大切ですよね。あるバンドは、毎年夏のイベントを25年も続けてきたんだけど、25年目で敢えて一区切りつけたんですよ。まだまだやれるけど、やれなくなって終わるのではなく、まだやれる力があるからこそ、また違う方向に切り替えて行こう……と。前向きでいるための区切りですね。そういうのって、凄いなあと思いませんか?

杏里:とってもよくわかります、その気持ち。やっぱり、自分で何かをはぎ取っていかなければならないことってあるんです、何か新しいことをやるには。

小野:どこで決断するかですよね。杏里さんは、日本のステージで最初にブレイクダンスを取り入れて、いち早くダンサブルなショーをやっていましたよね。それで、日本にブレイクダンスのブームが起きたくらい。でも、そのステージングも、ある時期から切り替えていったわけですね。

杏里:私は17歳でデビューしたとき、レコーディングで初めてアメリカに行って、自分がやっぱりアメリカの音楽の影響を受けているんだなって思ったんですね。ここから自分の音楽を頑張ってやっていこうって。だから、ブレイクダンスを持ってきたときも、これを通して自分の音楽をクリエイトしていこうっていう気持ちがありました。派手なライティングやセットで自分を飾り立てていた時期でしたね。でも、その後、やはり原点に戻るために、あの世界をバッサリと切ったんですよ。普通大きいステージに慣れてしまうと、ライブハウスはできなくなるんですが、そうなりたくはなかった。今でもライブハウスに立つと、自分はやっぱりシンガーなんだなあって確認できますね。

小野:ワイヤレスマイクやイヤモニを最初に使ったのも杏里さんのステージでしたね。

杏里:そうですね。大きなステージでやるときは、そうしないとミキサーの方が大変だから。でも、客席の臨場感は全く伝わってこないんですよ、ああいうものを使うと。だから、あんまり好きじゃなかった。

小野:歌の原点っていうのは、誰かがどこかで歌っているその声に誘われて、「あら、いい歌が聞こえてくるわ。どこかしら?」って、みんなが自然に集まってくる……そういうものだと思うんですね。大きな音で人を振り向かせるのではなく、オーディエンスが自然と歩み寄ってくるような。そういう意味では、杏里さんのステージはその原点に近い気がします。電気がなくて、マイクもシンセも使えなくても、ピアノと歌だけで充分に魅了できるでしょう?

杏里:そう! そういうことなんですよね。確かに時代が変わって、どんどんコンピュータが発達して、それはそれで私も楽しんでいるんですが、アコースティックなものと両方をうまく使い分けて、場所に対応してやっていきたいですね。リハでアレンジを変えたり、会場によって細かい変更をしたりするのは、コンピュータを使うとできないんでよね。最初にプログラミングしてしまうから。でも、当日のノリでアレンジが変わったりすることが、ライブでは楽しいんですよ。当日に変更があって、ちょっと緊張して本番に臨むのがまた楽しかったりね。それがライブかなって。だから、ステージでちょっとしたミスがあっても、それを周りが音で助けたり、そんなステージ上のやりとりがまたよくて。音はハートで通じ合っているんだなって、本当に思いますよ。

小野:そういうシーンに出会えた客席も、また楽しいんですよね。ライブのよさって、そういうところだから。

杏里:30年やってきたからこそ、そういういろいろな意味で原点にも戻りたいなと思うんですね。もちろん、新しいこともやりつつ。あとは、思いっきり音楽を楽しんじゃうような、遊びもやりたいし。とにかく、1に直感、2に努力! 直感って大切なんです。その直感を、努力でやりこなして行く。これからも、何でも恐れずにやっていこうと思います。

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