ANRI[杏里]公式サイト|anri-box.com

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ANRI STYLE

杏里スタイル
対談シリーズvol.1 ゲスト:坂田俊文(東海大学教授・工学博士)

坂田俊文 杏里が、様々なジャンルの方々をゲストに迎え、素敵なお話しをたくさん聞き出してしまおうという対談シリーズ。その第1回のゲストは、もう10年以上前から交流のある、画像情報工学のパイオニア、坂田俊文教授です。坂田先生のご専門は人工衛星。人工衛星から送られて来る地球観測データを画像処理して、災害や事故の予防、環境問題の解決など、様々なことに役立てようと、最先端で活躍されています。そのお話は、海から地球、エコ、はたまたイジメ問題にまで縦横無尽に広がり、対談は大盛り上がり。どれもユニークで楽しく、とても勉強になるお話しばかりだったので、今回から4回に分けて、シリーズでお届けします。

第1回 『 海の環境~漁師と人工衛星 』

杏里:先生、今日はお忙しいところありがとうございます。

坂田:杏里さんと出会ったのは、確か環境問題でしたね。学生みたいに僕のところにいきなり勉強に来たんです。代々木にある僕の研究所に、夜な夜な(笑)。

杏里:12年前ぐらいですね。ちょうど私が「Back to the BASIC」の入った『NEUTRAL』っていうアルバムを出した時期で。

坂田:その頃から海が好きで、イルカが好きで、環境のことにも興味があって。で、ある人から、環境のことはちゃんと勉強した方がいいって言われて僕のところに来たんでしたね。だから環境への興味が昨日今日のことじゃない……それが僕は素晴らしいなと思う。

杏里:先生のお話は、私みたいな素人にもわかりやすくて、楽しいんですよね。たまにダジャレが出るんですけど、それがまた面白くて(笑)。

坂田:近くのお寿司屋さんでいろいろ話しましたね。そのとき、今食べてるマグロが、その内食べられなくなるんじゃない?って話もでたでしょ?

杏里:はい。ホント、今、食べられなくなっちゃいましたね。

坂田:なっちゃったでしょ? それは海の問題なんですね。海の環境がどんどん変わってきてる。今、環境問題というと、環境の先生が出てきて、これはこうだ、ああだって、理屈を押しつける。だから、自分とは離れたことに思えちゃうわけね。環境を考えるときは、目の前のお寿司とか、自分の身近なところから入ることが大事 なんです。だから、杏里さんの場合なんかは、海が好き!っていうところから入るといいですね。

杏里:そうですね。そんなところまで考えていただいて、ありがとうございます!

坂田:僕ね、今年の1月頃に、宮崎県漁港へ行ったんですよ。何をしに行ったかっていうと……人工衛星なんです。普通、漁をするときは、漁労長っていう、ベテランの漁師がいるんですね。どうやって魚を捕るか、どこに魚がいるか、潮の流れはどうか、なんていうのを指示するのが漁労長なんです。ところが、最近はあんまり漁労長がいないわけ。全部機械なんです。魚群探知機、温度探知機、ソナー、全部、人工衛星からのデータ。海の底を機械で見ながら走っているようなもんです。

杏里:へえ!いわゆる、船のナビゲーションシステムですね。

坂田:そう!それで、あっちに魚がいるとか、温度によって、こっちはイワシだよってわかるわけ。そういう人工衛星からのデータを処理しているのは、アメリカのコロラド大学なんですよ。コロラドって山の中でしょ? そこで魚群探知機のデータを処理してるって、面白いと思いません?(笑)

杏里:面白いですねえ。そんなもんなんですね。

坂田:でね、そうやって魚はどんどん捕れるんだけど、漁師は違う心配をし始めたんですよ。このままどんどん魚を捕っちゃうと、捕りすぎで、将来、困っちゃうんじゃないかって。魚という資源を守らなくちゃいけない。どうしたらいいんだろう?って、みんながやっと考えるようになったわけ。そうすると、海の性質とか環境を勉強しなきゃいけない。要するに、環境を考えるってそういうことなんですね。きちっと海の環境を知らなきゃ魚が捕れなくなるってことが、生活の中からわかってくるんですよ。

杏里:そういうことをやらなかったから、今、マグロが捕れなくて、大変なことになっていますよね。世界的に消費量がすごいから。

坂田:国際的な問題になっちゃってますね。マグロはおいしいから、今まで食べなかった人たちまで食べるようになっちゃった。ヨーロッパでも、アフリカでも。だから日本に来なくなっちゃた。マグロが旨いの、誰が教えちゃったかね?(笑)

杏里:ホント、食文化の変化ってすごいですね。日本とアメリカを行ったり来たりしていて思うんですけど、今から29年前に、デビューアルバムをLAに作りに行ったときは、まともな日本食屋さんなんてなかったんですよ。ご飯もインディカ米だし、お豆腐がやっとあるくらい。でも、最近は凄いですよね。ここ5~6年でもっと増えてきて、みんな寿司、寿司。マグロも美味しいのはどれかって、みんな知ってるんですよ。ワサビも、チューブのとすり下ろしたホンモノを見分けてしまう。

坂田:どんどんレベルが上がってるね。で、マグロも捕れなければ食べられない。環境は、食文化に、すごく影響を与えているわけね。海の環境が変わったのには、2つ理由があります。1つは、食文化の変化に会わせて、食べるためにどんどん収穫したから。もう1つは、地球のリズムが変わってきてるから。これをごちゃ混ぜにして考えるからダメなんですよ。だから、まずはきちっと、自分たちの身近な身の回りから考えるのが大事じゃないですかね。で、僕は南郷の漁師さんに、人工衛星でどのくらい海の状況が調べられるか、説明に行ったわけなんですよ。人工衛星は、漁業にこれだけ役立っていますよっていう話をしにね。そうすると、漁師さんは気性が荒いから、「研究かなんだか知らないけど、俺たちは生活がかかってるんだ!」って言うので、じっと我慢して聞くことしかできない。結局静かになるまで待つことですよ。全部言わせてしまえばいい(笑)。

杏里:先生流のトリックですね(笑)。

坂田:同じような経験をしたことがあるんですよ。20年ぐらい前かな。出雲の大社湾っていう湾があって、そこはサバ漁が盛んなんです。湾に沿って5~6個のデカイ漁業組合があってね。で、中国山脈に大雨が降ると、その辺りが洪水になったんです。それで、神戸川(かんどがわ)っていう川を掘削して放水路を作って水を流すという工事を、当時の建設省が始めたわけね。そしたら漁業組合が立ち上がって、そんなことしたら大社湾に土砂が流れ込んで、我々のサバが捕れなくなる と。それで大論争になったわけなんですよ。国としては、多くの人を助けるために始めた工事なのにね。

杏里:そうですよね、意味のある工事ですね。

坂田:いろいろシミュレーションして、そういうことはないと言ったんだけど、聞かないわけ。それで建設省が僕のところに来て、人工衛星で、台風のときに濁流がどう流れるのか調べてくれと。それで調べたら、大社湾に影響がないことがわかったんですよ。

杏里:そういうことが人工衛星でわかるのは素晴らしいですね。

坂田:でも、それでも納得できないって、漁業組合に呼ばれたんです。工事事務所長が、一緒にどうしても来てくれっていうんで、僕も、漁師たちが集まる、恐ろしいところに行ったわけ(笑)。そしたら、みんな一升瓶並べて、なんだ!って顔で、僕を見るわけ。

杏里:漁師さんたち、みんな気合い入ってますからねえ(笑)。

坂田:いやあ、恐ろしかったですよ。で、私が説明しようと思ったら、「その前に、こっちの話を聞いてくれ、我々は生活かかってんだ!」って。だから僕も「はい!僕の研究も生活かかってるんです!」って言ったの。そしたら、1升びんをドン!と置いて、「これ、飲め!」って言うんですよ。「これ、何ですか?」「酒だ!見りゃわかるだろ!」「僕は酒、飲めないんです」「だらしねえなあ!」「いや、酒じゃなくて焼酎ないですか?」「誰か焼酎買ってこい!」って。で、僕が「すみません、湯飲み貸してくれません?さあ、行きましょう!」って言ったら、向こうがエッ!てビックリしちゃった(笑)。

杏里:アハハハ!まるで映画のワンシーンみたいですね(笑)。

坂田:そんなことがあって、話し合いが始まって、それは治まったんです。そういう経験があるから、僕は漁業組合って慣れてるんです。だから、今年久し振りにそういう対応を見て、楽しかったね。今回も、向こうの言い分を聞いてから、海の環境が大きく変わっているという話をして、これからは皆さんと協力して環境問題を考えていきましょう。そうすれば、資源が確保できるんじゃないですか?って言ったら、みんな納得してくれました。こんな風にね、環境問題は、自分の生活と兼ね合わせて考えて、初めて理解できるんです。

杏里:なるほど、そうですね。

坂田:農業だって同じですよ。農業にも面白い話があってね。大学の農学部がありますよね。農学部には、農業科と畜産科の二系列があるんです。でね、農業科の先生と、畜産科の先生では、人間のタイプが全く違うんですよ。何が違うかというと、畜産系の人は、動物の命を預かっているわけですね。だから、毎日24時間、緊張しているんです。ラットが痙攣起こしたとか、豚が風邪ひいたとか。だから、学部の会議でも、みんな白衣着て眉間にシワ寄せてる(笑)。農学系は、今年は雨が多いとか、サイクルが1年なんですね。のんびりしてる。だから、学部長が決まるときは、畜産科と農業科と交互になるんです。この2系列で人を見ると面白いですよ。警察は間違いなく畜産系なんです。24時間事件があるから、ピリピリしてる。

杏里:私はどちらかと言うと、農業系ですかね(笑)。

坂田:自衛隊は農業系なんです。守ることに専念してて、もしあれが来たら、これが来たらって言ってるけど、来ないでしょう?(笑)こういうのを見ても、その人の生活空間によって、受け取り方が全く違うんですね。一つの理論で、こうしなさい、ああしなさいて言っても無理なんですよ。

杏里:私も、この12年間に先生にわかりやすく説明していただいたお陰で、すごく気付いたことがたくさんあります。今日もそうなんですけど、とにかくお話しが面白くて。で、環境に関する何かをやりたいとずっと思っていたんですが、なかなか行動に移せなくて……。知識があまり無いのに、音楽を通して環境保護を訴えようっていうのも、何かおこがましい気がして。でも、やっと最近、私の周りでもいろいろ動き始めて、もしかしたら、何かできるかもしれないなっていう気がしている んです。この12年間、少しずつ教えていただいたことを、何か少しでも外に伝えられたらなあと。

坂田:杏里さんが素晴らしいなと思うのは、フワフワと思いつきでやるんじゃなくて、もともと自分で疑念を抱いて、考えて来た人だということね。だから、今、それが熟成してきてる。テレビで環境問題についていろいろ言う人もいるけど、何か浮ついているか、特定の先生の受け売りだったりとか。自らの立脚点が不安定なんですよ。詳しいとかそういうことじゃなくて、哲学の問題なんですね。だから、僕もできるだけ杏里さんのお手伝いはしていきたいし、僕の方こそ、機会があったら、杏里さんにいろいろ手伝っていただきたいなと思っているん です。

杏里:もう、何でもお手伝い致します!これからもよろしくお願いします。

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